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しかまの里のミニ情報

認知症 地域で見守る

日本経済新聞<夕刊> 2009年6月11日(木) より

認知症の高齢者やその家族を支援しようと2005年度から養成が始まった「認知症サポーター」がこのほど100万人を超えた。先駆地域のひとつ、福岡県大牟田市では、見守りネットワークも活発に活動する。取り組みを追った。

「これ、ください」とトイレットペーパーを差し出す高齢男性。2月のある日、大牟田市のコンビニエンスストアでレジに立っていたマネジャーの久田紀子さん(56)は、その男性が数日前にも同じようにトイレットペーパーを購入したことを思い出した。

自然体で声かけ

「たくさんお使いになるんですね。ほかにも何か必要ですか」。久田さんがいったん商品を脇に置いてゆっくりと話しかけると、男性は「ああ」と言ったきり、黙り込んだ。そのとき、店のドアが開き「ここにいたの」との声。男性を捜していた家族だった。男性はしばらく前から認知症の症状が出始め、近所を徘徊(はいかい)するようになっていたという。

「(認知症サポーターの)講座を受ける前には、あれっと思っても、なかなか声がけはできなかった」と久田さん。1年ほど前に講座を受けてからは「穏やかに話しかければ、相手もおびえたり緊張したりしないことがわかった」。久田さんの手首には、認知症の人への接し方などを学んだことを示すブレスレット「オレンジリング」がある。

介護保険の事業者への報酬が変わる
ブレスレット「オレンジリング」を身につけ、店頭で支援の意思を表す。(福岡県大牟田市)

医療や介護など専門的なケアを充実させることは欠かせないが、地域住民の正しい理解や温かい見守りも、患者本人や家族の支えとなる。サポーター数は09年5月末で100万人を突破。福岡県大牟田市は、サポーター1人に対する65歳以上の高齢者数が10人と、全国的にみて手厚い自治体のひとつだ。

「炭鉱閉山による人□減少で、高齢化は急速に進んでいる。サポーター育成による地域力強化は急務」と市の長寿社会推進課の池田武俊課長。「単なる講座の開講事業だけにとどめない工夫が大切」と話す。

その軸となるのが、地域住民、介護事業者、行政などによる地域ごとのネットワークの構築だ。久田さんのコンビニの近くで「わたなべ花壇」を営む渡辺香苗さん(47)。プランターや植木鉢、切り花にあふれた店内の電話機のそばには、認知症と思われる人を見つけた際に連絡する最寄りの介護事業者の電話番号がはってある。

行政などとネット、定期的に交流

以前、店の前でたたずんでいた年配の女性に渡辺さんが「こんにちは」と声をかけると「(隣県の)熊本に行くのは、この道でいいですか」と思いがけない問いが返ってきた。このときは、捜していた家族が女性を見つけ、無事に連れ帰り、結局ネットワークに電話をすることはなかったが「いざ、というときに地域のみなさんや専門の方との連絡方法が決まっているのは心強い」と渡辺さんは話す。

ネットワークは不明になった高齢者を捜すときにも力を発揮している。高齢者が不明になったとの一報が市役所や警察などに入ると、市役所で情報をとりまとめて、ネットワークに参加している介護事業者や店舗などにファクスや電子メールを一斉に送信し情報を共有。不明者の発見を急ぐ。「ここ数年、不明になった高齢者の死亡事故は防げている」と池田課長。

老い考える契機

サポーター同士の交流を深めるために、地域ごとに定期的な茶話会なども開かれている。意見交換では認知症の入かどうかを見分けるポイントとして“季節や天候にそぐわない服装をしている”“ボタンの掛け違いなど衣服の乱れがある”“目的地や交通手段を明確に言えない”などの体験談が
地域の知恵として共有されていくという。

また、地域によっては、年に数度の「徘徊模擬訓練」を実施。声がけからネットワークヘの連絡、保護、家族の到着までの一連の支援活動を数時間かけて試行しており、全国の自治体や介護事業の関係者が視察に訪れている。

不明になった高齢者を捜す際の連絡拠点でもあるグループホーム「ふぁみりえ」のホーム長、大谷るみ子さんはサポーター養成の意義を「誰もが等しく年を取り、自分も認知症になるかもしれない、とみんなが理解していくこと」と説明する。

模擬訓練でかつて徘徊役を務めた「はやめ南人情ネットワーク」事務局の橋本敏郎さん(79)は「私がそうなったときには、やかましく怒らないで『どこにいくの?』とやさしく聞いてほしい。いちばんさびしいのは誰からも声をかけてもらえないこと」と笑う。老いとそれに伴う病を自分のこととして考え、温かくサポートする。そんな輪は確実に広がっているようだ。

広がるすそ野

養成講座は2005年度に厚生労働省が中心になって始まった。症状の正しい知識や具体的な接し方について、テキストやビデオなどを使って学び、オレンジリングを受け取る。地域や職場単位などで開催され、約90分。原則無料だ。
「地域の人々が、それぞれのできる範囲で認知症の人やその家族を支えていく。オレンジリングはその気持ちの目印」。厚労省とともに教材の提供や講師の派遣をする全国キャラバン・メイト連絡協議会(東京都新宿区)の菅原弘子事務局長はこう話す。専門家の養成ではなく、理解と支援のすそ野を広げるものだ。

厚労省は03年に発表した「2015年の高齢者介護」で、介護や支援を必要とする認知症高齢者が15年に250万人に増加し、全国の65歳以上の7.6%を占めると推計。30年には353万人で同じく1割を超えるとみている。「認知症に対する地域の理解と安全ネットの構築は一層重要性を増す」として養成事業を継続していく方針だ。

 

 


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