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しかまの里のミニ情報

08-職場のメンタルヘルス

日本経済新聞 2009年5月17日(日) より

 高齢者の介護施設や、がん、脳卒中などの治療現場で、口の中を清潔にしたり飲み込む機能を高めたりする口腔(こうくう)ケアが広がりつつある。歯科医師や歯科衛生士を中心とした口腔ケアチームが担い手で、地域の歯科医らとも連携、患者の「口と全身の健康」を支えている。

 口腔ケアには、口の「機能回復を中心とするケア」と、口の中を清潔に保つ「清掃を中心とするケア」がある。

 東京都リハビリテーション病院(墨田区)歯科の永長周一郎・歯科医師は「歯が健康で口腔機能が良いと、食べた物を咀嚼(そしゃく)し、食道や胃に送り込む嚥下(えんげ)動作をスムーズに行える。好きな物を食べられることで生活の質(QOL)を高める効果もある」と語る。

 脳卒中患者や認知症が進んだ高齢者の多くは、こうした機能が損なわれるため、口をすぼめるなどの口唇訓練や、舌、頬(ほほ)の筋肉を動かす訓練などを通じて口腔機能回復をめざす。

 

 要介護の高齢者に対する口腔ケアの必要性は、1990年代から指摘されていたが、老人保護施設、特別養護老人ホームの8割が実施していないとの96年の調査もある。

 国立長寿医療センター病院(愛知県大府市)口腔機能再建科の角保徳医長(53)は99年、全国初の高齢者や要介護者向けの口腔ケア専門外来を開設。全国の特別養護老人ホーム46施設の約1200人の介護従事者にアンケートしたところ、9割以上が「口腔ケアが重要」と認識しているのに、実際に「研修を受けたことがある」のは約4割にとどまることが分かった。

 角医長は「いつでも、どこでも、誰でも、少ない費用と短い時間でできる標準化された口腔ケア」が必要と痛感。1日1回、約5分の時間で出来る「口腔ケアプログラム」を考案した。
 


 一年半の臨床応用の結果、歯垢や歯肉炎の発生が半分以下に減少したほか、大半の介護職員が疲労感や負担感が減ったと答えた、という。
 「近年、誤嚥性肺炎や心内膜炎、敗血性心疾患などとの関連を指摘する報告もある。口腔ケアは、これらの予防だけでなく、高齢者の食欲を増進させて、低栄養状態を改善する効果もある」と角医長は話している。

 

肺炎の原因にも

 衛生状態の改善も口腔ケアの大きな目的だ。温度や栄養など細菌が増える条件がそろった口の中は“細菌の培養器”ともいわれ、衛生状態が悪いと歯垢(しこう)1ミリグラム中の細菌が1億個にも達する。

 嚥下機能が低下した患者は、細菌が気管内に入って誤嚥(ごえん)性肺炎を引き起こす危険が高い。肺炎は高齢者の死亡の最大原因だ。

 同病院は2004年から地域のケアスタッフ向けに口腔ケア研修を実施。08年からは事務局として区東部地域のリハビリ科医、歯科医、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士、看護師、作業療法士、ケアマネジャーらを集めた嚥下リハビリ研修会を開催。「歯科医師と医師の連携を軸に口腔ケアにかかわる専門職が“顔の見える連携”を模索している」(永長歯科医師)

 群馬県伊勢崎市の介護老人保健施設「アルボース」は、1996年の開設当初から入所者の口腔ケアに取り組んできた。言語聴覚士が口内炎、歯周病などの有無や嚥下機能をチェックし、1人ひとりに応じて看護師や介護スタッフが1日3回、食後に行う。

 「大きく口を開けてください」。脳卒中の後遺症で4年前から寝たきりの男性(71)に介護スタッフが声をかけた。ぬらした歯ブラシで丁寧に磨き、たまった水は吸引機で吸い出す。「口腔ケアをしてもらった後はさっぱりするのか、気持ちよさそうに眠る」と付き添う妻は言う。

 美原恵里・施設長は「02年の実施率は7−8割どまりだったが、医療、介護、リハビリのスタッフが連携、手法を統一して現在ではほぼ100%実施している」と語る。

 

口内合併症を予防

 がん治療では、抗がん剤や放射線治療の影響で口内の合併症に悩まされる患者が少なくない。米国立がん研究所(NCI)によると、化学療法を受けた患者の40%が口腔内の合併症を発症、その半分は治療スケジュールや投与量の変更を余儀なくされている。血液がんで造血幹細胞移植を受けた患者の80%、頭頸(けい)部のがんで放射線治療を受けた患者は100%が合併症を起こす。

 静岡県立静岡がんセンター(長泉町)では、02年の開院当初から口腔ケアに力を入れ、口内合併症の予防と軽減に当たる。歯科医と歯科衛生士が加わったチーム医療で、週1回、頭頸科、放射線科、消化器内科、形成外科などの医師や看護師、管理栄養士らが症例検討会を開く。

 大田洋二郎・歯科口腔外科部長(47)によると、同院では、治療前の患者を診察して虫歯治療や歯石除去を行い、入院中は歯科医や衛生士が病室を巡回診療。退院後、外来で化学療法を受ける患者の口腔ケアにも当たる。三島市の会社員、内村隆裕さん(54)は「もともと歯周病があったが、専門的なケアを受けられて安心だ」と話す。

 この結果、頭頸部がんの術後合併症の発生リスクを7分の1に減らし、通常10−20%の頻度で起きる食道がんの術後の肺炎発症を7%以下に抑えたという。

「がん治療中の患者の診療を断る歯科医院が多い」(大田部長)ため、06年から地域の歯科医向けの口腔ケア講習会も実施。県東部の歯科医の約半分に当たる266人に「連携歯科医」になってもらい、退院後の患者を紹介する体制を整えた。手厚い「口腔ケア」の連携の輪が、院内から地域に広がりつつある。

(日本経済新聞 編集委員 木村彰)


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