職場は、生活のための収入を得るとともに、能力を高め、自己表現をはかる場でもあります。近年、企業の社会的責任への関心が高まる中、その一環としてダイバーシティ(多様性)の推進など、誰もが働きやすい職場の環境づくりがすすめられつつあります。ところが、現実には、過労自殺、職場におけるハラスメントの増加など人権にかかわる問題が跡を絶ちません。
そこで、本号では「職人と人権」をテーマに、人権尊重の観点から、現状と課題を明らかにしながら、誰もが安心して働き、自らの力を発揮することが出来る職場の環境をつくるために、私たちは何をすべきかを考えます。
関西労災病院 心療内科・精神科部長
梅 田 幹 人
≪プロフィール≫
和歌山県生まれ。京都大学理学部・及び大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院精神神経科で研修。国立療養所松籟荘(しょうらいそう)、関西労災病院神経科、茨木病院に勤務。平成18年4月より関西労災病院心療内科勤務。精神保健指定医、日本精神神経学会指導医、日本老年精神医学会指導医。 |
職場のストレスとは?
職場では大きく分けると4つのタイプのストレスがあると言われています。
(1)ハードスケジュール型ストレス
(2)オーバーワーク型ストレス
(3)出世競争型ストレス
(4)対人型ストレス
です。今最も多いのは(4)であり、仕事の事で悩んで当科を受診される方のほとんどは対人関係の悩みによるものです。このような悩みをかかえた同僚の方に、どのようなアドバイスが有効でしょうか。「いやな人の事は考えなければいい」と言っても、それが出来ないから悩む方が多いようです。「いやな人がいても、その人のいい所や、自分にとって何か良いことをしてくれたことを一生懸命探すこと」は有効な場合があります。即ち世の中には、水戸黄門に出てくる悪役のような、どこをとっても悪という人はいないからです。
話すこと、聞くことの大切さ
ストレスに対する最も簡単な対処法は人に話をすることです。人間は話をする時には自分の頭の中を整理しなければ言葉には出来ません。だから話をする過程において自分の考えが自然と整理され、自分で何で悩んでいるのか初めて気がつくことがあるのです。これは専門的には言語化といってカウンセリングの基本技法なのです。また話をする事によりカタルシス(浄化)を得る事も可能です。悩んでいる人がいれば、周囲の人はその人の話をよく聞いてあげることが重要です。事情により周囲に話が出来ない場合は、関西労災病院で「勤労者心の電話相談」を無料で行っていますのでご利用下さい。
「うつ」―タイプ別の対応を
近年、職場のストレスと関連して精神疾患を発症し、関西労災病院の心療内科を受診する方が確かに増加しています。その多くは「うつ」に関連する疾患で、「うつ」にかかる方が増えていることは間違いありません。最大で見積もれば30%程度の人が「うつ」の経験があるのではないかと言う人もいます。ただ気をつけていただきたいのは、「内因性うつ病」といわれる重篤な「うつ」は0.4%位で、この数に変化はないということです。増加しているのは「うつ」の症状が見られるその他の疾患、即ち「抑うつ神経症」「適応障害」「ヒステリー」「人格障害」「抑うつ反応」等であると考えられ、その多くは心因性疾患に属しています。身近にいる「うつ」の方がどのタイプに属するのかによって、必要とする対応の仕方や経過が異なることもあるので、ある程度区別していくことが求められます。
内因性の「うつ」は素因(ある病気にかかりやすい素質)が関与する部分が多いと考えられるものです。それに対して心因性の「うつ」は発症に心因(ストレス)が大きく関わっていると考えられ、本人の性格要因や脆弱性が関与するとされています。
内因性の「うつ」の場合、症状は重篤になることもありますが、薬物療法が有効なことが多く、数ヶ月以内にはすっかり元に戻る方が多いタイプです。このタイプでは症状が悪い間は休ませて治療を受けさせることが重要です。
心因性の「うつ」は薬物療法が無効な場合や慢性的に経過してしまう事もあります。最近増加していると言われる「うつ」はこちらのタイプです。性格的な要因や、大人になりきれていない場合もあり、周囲はがまん強く本人をささえて成長を促す必要があることもあります。
精神疾患にかかると完治しにくくなります。そうなると勤労者の方の場合は休養加療と出勤を繰り返すケースも多くみられます。皆様の周りにも、そういった方がいるのではないでしょうか。その結果は本人にとっても会社にとっても不利益となり、同僚も困ることが多く、国家にとっても大きな損失となります。政府もやっとこの事に気がつき始め、メンタルヘルスに力を入れるようになってきました。即ち、精神疾患は、予防することが一番重要であり、またそれは可能だということです。
関西労災病院 「勤労者心の電話相談」
月〜金 PM2:00〜8:00
TEL 06-6414-6556
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