ターミナルケアの実践 【2】
…スタッフ(介護管理者・介護職員、看護職員、生活相談員など)の立場から
ターミナル期の判断・ターミナルケアの場
入居者が老衰や病状悪化により、経口からの飲水、食物が摂れない状態が続いてきたら「看取りのとき」が近づいていると判断しています。そして、医師が家族に病状を説明し、施設での「看取り」を望んだ場合に限り、ターミナルケアを実施しています。ターミナル期の医師の役割は、経過観察と指導、助言などです。もちろん、亡くなられたときには死亡診断を行います。
入居者がターミナル期になったら、家族と医師、施設職員がターミナルケアの方向性を話し合うために面接し、施設での看取りを受け入れる場合はどのような対応になるか家族に説明し、共通認識しておくことが大切です。
ターミナルケアの場として、個室と多床室のどちらにするかということがあります。私たちは、自分の生活の慣れた環境の中で、ご本人・家族のニーズに応じて、できるだけ今までの生活リズムを変えずに看取りを迎えられるようにしています。
多床室においては、家族とゆっくりくつろぐスペースがありませんが、入居者が今まで生活していた環境の中で、他の方と一緒に過ごされています。個室は、他者との交流がなかなか難しく、孤立された感じになることもあります。ですから、それぞれの方の希望に沿うようにしています。家族より、多床室から個室への変更の依頼があった場合には速やかに対応し、援助ができる体制づくりに取り組んでいます。
ターミナルの看取りと他の入居者・スタッフとのかかわり
高齢者は少なからず「死」について考えており、いずれ訪れるであろう自分の死を受け止める気持ちが入居者にあります。日頃から仲良く暮らしておられる入居者が、施設職員と一緒に他の方を看取ることにより、「私もここ(しかまの里)で、このように死を迎えてもらえるのかな」と、少しでも安心感をもってもらえます。また、死を迎えようとされている入居者にも、孤独感を和らげるよう取り組んでいます。そのことにより、入居者同士の関係を尊重してあげるべきではないかと考えています。
死後の処置へのスタッフのかかわりについては、人間の死を受け入れるスタッフをどのように養成するかも考えています。人間の死は特別なものではなく、恐れる必要もないことを特に若いスタッフに受け入れてもらうことが大切です。家族にも死後の処置に参加してもらっています。職員と共に、亡くなられたお年寄りの思い出話をしながら実践しています。
スタッフ一人ひとりの死生観には違いがありますが、死後の処置へのかかわりをとおして、人間として、また専門職としても成長していけると思います。特別養護老人ホームのターミナルケアについては、全体職員会議の場において施設全体の統一した考え、方針をつくるよう努力しています。
寄り添う介護の実践の難しさ
私たちはいつも、施設の基本理念である「やさしく、ゆったり、よりそって」を指針とし、高齢者ケアに取り組んでいますが、ターミナルケアについても同様です。しかし、職員数には限界があり、ターミナルケアを実践していくために十分な職員数がいるわけではありません。そのため、常に寄り添うケアを継続するにはかなり困難な状況ですが、そのことも含め家族と共に協力し合い支援していくことが重要だと思います。そして、家族と一緒に寄り添っていけることが入居者の望みであると思います。
寄り添う介護を円滑に実践するためには、マニュアルが必要だと考えています。なぜ、マニュアルが必要なのかといいますと、ターミナルケアを実施するには、施設全体としてターミナルケアについて方向性についての確認が欠かせないからです。そのため、新人教育・養成において十分に理解してもらうようにしています。
そのようにして、全職員の共通認識を醸成しています。施設のターミナルケアの運営方針を示すためにマニュアルを作成しておくことにより、ターミナルケアに対する意識の統一が可能です。
ターミナルケアの実践に関する職員教育としては、次のように考えています。「入居者の死」に寄り添うことにより、職員は「死」について学び、「死」と向き合えるようになりました。それぞれの職員が、それぞれの立場から「今自分にできることは何か……」を考え、精一杯に援助に努め、その積み重ねにより職員が教育され、職員の成長につながっていると思います。

ターミナルケアのケースを検討する関係職種の担当者会議 |

ターミナルケアの勉強会をする全体職員会議(毎月2日間開催) |
ご臨終への対応、お別れ会の実施、そして玄関からのお見送り
家族と共に入居者の看取りの時間がゆっくりと経過していくなかで、死亡確認は医師の協力により24時間対応をしています。また、家族も同様に深夜でも施設に来ていただき、終末における対応を職員と一緒にお願いしています。
お亡くなりになり、家族が施設内でお別れ会をしたいとの希望があれば、他の入居者と共に実施しています。もちろん、家族の了解と入居者の希望を確認しています。
そして、家族、入居者、職員が集まって、入所のときは正面玄関から入られたのですから、正面玄関からお見送りをしています。
ターミナルケアに関する入居者、家族との意思の確認
入所前の契約の際に、ターミナル期になった場合、病院での受療あるいは施設での看取りのどちらでも家族の選択で実施できることを説明しています。また、家族が入居者の医療についてどう考えているか、急変時の対応も含め意向確認し、文書にて同意を得るようにしています。入居者が重篤な状況になった場合、延命処置を望まない家族に対して、心肺停止の状態で家族の考えを十分に確認しています。
しかし、家族のそれらの判断はその時点のものですから、ターミナル期になって連絡した際に考えが変わることもあります。その際は遠慮なく話してくださるように伝え、ターミナルケアについて十分に理解してもらうよう説明しています。
また、家族も複数の関係者がいるため、家族間で医療についての意思統一が必要ですから、そのために事前に関係者で話し合ってもらっています。入所中に状態が変化したときは家族との連絡が密になるため、随時、相談を受け、家族の希望をその都度、確認しています。
ターミナルケアと職種間の連携の重要性 他のケアとの共通性
職員全員が一丸となってターミナルケアに取り組むことが必要です。そのためには、ターミナルの状態が発生したときは、各部署(介護、看護、相談、栄養、介護管理、施設)が一緒に事前に何度も打ち合わせをする機会をつくります。
その際にそれぞれが持っている情報を出し合い、入居者のターミナルケアの方向性を確認し、チームケアにより入居者の最後を看取る活動を行っています。そして、看取りの活動は、家族が中心となり施設職員は、サポートする立場であることを共通認識して、十分なコミュニケーションを図りながら連携していくことが大切です。
ターミナルケアの内容 寄り添う、声かけ、語りかけ、スキンシップなどの人と人の関係
施設では、医療行為ができません。そこで介護職員ができることは苦痛を和らげるために、背中をさすったり、声かけをしたり、手を握って相手に気持ちを伝えたり、不安を緩和するための援助を行うことだと思います。その方に何かをしてあげることがすべてではないと思います。その方の人生を、ご本人・家族と一緒に、「良かったですね」、「よく頑張って生きてこられましたね」と顧みる、そのようなターミナルケアをしています。
経口摂取が困難になったとき(嚥下機能の低下)の対応については、食事形態を変えたり、おいしいもの、好きなものを食べていただくよう心掛けています。職員の思いは、できる限り経口摂取をしていただくことです。食事は、見栄え・におい・味などで楽しむもので、なるべく人生の最期でも安易な経管栄養補給は避けたいと思っています。どうしても食事が食べられなく(経口摂取が不可能)なったときは、医師と相談し、家族また職員の戸惑いを解消しながら「看取りの方向性」を導いています。
緊急時には、主任、副主任、相談員の連携により3段階の対応をしています。まず、入居者の容態が急変したら、介護職の主任と副主任との間でその対応についての相談し、速やかにフロア職員に指示できるようにします。その際、緊急連絡網により看護職、あるいは管理者などへの連絡は状況判断で行っています。
また病院への救急搬送をする際は、フロア職員が施設へ帰らなければならないことを考慮して、付き添いサポートとして副主任や相談員が同行し、家族が来るまでの間の付き添いが確実にできるよう普段から体制をつくっています。
ターミナルケアの特徴的な実践事例(その2)
重度認知症で目の不自由だったYさんは、肺炎を発症し協力病院へ入院しました。入院後も状態は改善されず、経口での栄養摂取も困難な状態になっていきました。家族は「本人が元気なころから自然なままに最期を迎えたいと望んでいたので、これ以上の延命治療や入院治療は望みません。できれば“しかまの里”に帰って看取りたい」と言われました。
そこで、できる限り家族の意向に沿えるようにと施設での援助体制を整えていき、約1ヵ月後、Yさんは「しかまの里」へ戻りました。家族は毎日交替で施設に来られ、Yさんと過ごす一日一日を大切に過ごすようになりました。私たちも、できるケアを精一杯実践していきました。それから約7ヵ月後、Yさんは家族に見守られながら永眠されました。
そのときに家族は、「もし、母を家で看取っていれば、私たちも共倒れしていたと思います。こうして施設に入居していたので、最期まで悔いのないかかわりをもつことができました。本当にありがとうございました」と言われました。その言葉を聞いたとき、医療行為に制限のある特別養護老人ホームですが、特別養護老人ホームでなければできないターミナルケアがあるのだと、改めて実感することができました。
その入居者の生きてきた最期のステージを共に過ごすことができたからこそ、私たちでしかできないケアがあることを感じています。そして、私たちの「重要な使命」は、入居者の最期に傍らにいてほしい人が傍らにいる環境をつくることだと思います。それは、やはり家族です。そのために私たちは、常に家族との連携を図ることに努めています。親は子供が生まれたときからいろいろなことを教え育てていますが、最期には親は自分の「死に様]を子に見せて子は「死」を学ぶ、と言われます。そんな大切な「死」の時を家族と共に過ごせるように、私たちはこれからも私たちにしかできない「寄り添うケア(看取り)」に取り組んでいきたいと思います。
ターミナルケアは日頃の寄り添う介護への「より良い」波及効果
日頃から、施設の基本理念の「やさしく、ゆったり、よりそって」を唱和しています。職員は、日々忙しい毎日ですが、日常の生活の中で入居者とゆったり寄り添うことを大切にしたケア活動を行っています。
「しかまの里」では、ターミナルケア=終末期とは考えず、入居されたときからその方のターミナルケアは始まると考えています。ターミナルだからかかわるのではなく、日常から各入居者とかかわりを持つことによって、それぞれの残りの人生を楽しく過ごしていただくことができ、一緒に過ごした時間をともに顧みることができるからです。
「寄り添う介護」を、職員の自己満足だけでするのではなく、一人ひとりの入居者とそれを共感できる介護として実践していくよう取り組んでいます。 |